馬場川通りを知る

中⼼市街地まちづくり指針「前橋市アーバンデザイン」にもとづく⾺場川通りの公共空間⺠間整備と市⺠⾃治的管理の実現

地域の地権者が参画した唯⼀の都市利便増進協定事業、
⺠間寄付も得た取り組みにトップ・プロが集結

⺠間会費による都市再⽣推進法⼈であるMDCがアーバンデザインの可視化プロジェクトとして本件を提起。これに地元財界団体「太陽の会」が寄付決断、市・MDC・地権者が都市利便増進協定を結ぶことで公共空間(遊歩道公園+市道200m)の⺠間整備が可能となった。30もの地権者が協定に加わった稀有なケースであり、この協⼒が通りの市⺠⾃治的管理を可能にしている。

⼯事竣⼯がゴールではなく継続的美観管理と賑わい創出が重要でそれを「⾺場川通りを良くする会」が担っている。このまちづかいの当事者がデザイン・設計チームとの対話や社会実験を繰り返すことで、デザインからまちづかいがシームレスに繋がり「前橋らしい」空間を実現している。こうしたプロセスの成果として、意匠・安全性・快適性・維持管理容易性をバランスできている。


相関図

  • ① ⽇下⽥ 伸(都市再⽣推進法⼈(⼀社)前橋デザインコミッション)[MDC]
    ⺠間側のアーバンデザイン推進⺟体としてプロジェクトマネジメントを担当。
  • ②前橋市[MC]
    アーバンデザインを策定しMDCとの官⺠連携を推進。縦割り超えた機動⼒を発揮。
  • ③太陽の会[TK]
    MDCの呼びかけに応え、本プロジェクトに3億円を寄付した地元財界団体。
  • ④⾺場川通りを良くする会[BYK]
    商店街組合を⺟体に広い市⺠が参加した市⺠⾃治的な通りのエリマネ組織。
  • ⑤平賀 達也(株式会社ランドスケープ・プラス)[L+]
    空間と仕組みのデザインを統括。⽔路をまちの中⼼に据え直し前橋らしさの復興に尽⼒。
  • ⑥⼤波 修⼆(株式会社オリエンタルコンサルタンツ)[OC]
    ⼟⽊設計を担当。河川・インフラ管等が狭い範囲集中する難度の⾼い都市リノベ実現。
  • ⑦ジャスパー・モリソン[JM]
    公園施設(公衆トイレ)のデザインを担当。世界で2つ⽬のパーマネントな建築作品となった。
  • ⑧髙濱 史⼦(髙濱史⼦建築設計事務所)[FT]
    公園施設(公衆トイレ)の設計を担当。デザイナーの世界感をまちなかの⾵景に再現。

⾺場川通りの公共空間⺠間整備と市⺠⾃治的管理の概要

地元有志の資⾦による公共空間の整備と官⺠連携の仕組みによる管理運営の実施

前橋市が掲げる「前橋市アーバンデザイン」のリーディングプロジェクトとして、前橋デザインコミッション(MDC)が公共⼯事の資⾦調達から完成後における管理運営の事務局を担う。事業費は地元企業家有志からの寄付⾦やMINTO機構からの拠出⾦をもとに設⽴した前橋市の助成⾦により調達。

前橋市とMDCがタッグを組みながら周辺地権者が都市利便増進協定を結ぶことで、官⺠が連携して公共空間の管理運営を担う持続可能な社会の仕組みを構築している。

「前橋市アーバンデザイン」(2019年)前橋市
「前橋市アーバンデザイン」(2019年)前橋市

前橋市アーバンデザインと馬場川通りの歩み

草創期 草創期
  • 2013年

    JINS創業者の⽥中仁⽒が地域の⽂化振興や起業⽀援を掲げ「⽥中仁財団」を設⽴

  • 2014年

    ⽥中仁財団⽀援のもと前橋市が官⺠共創事業として「前橋ビジョン」の検討を開始

  • 2015年

    ドイツのブランドコンサルティング企業KMSに分析・戦略・ビジョン策定を委託

  • 2016年

    市が前橋ビジョンを地元出⾝の⽷井重⾥⽒による⾔葉「めぶく。」と共に発表

  • 2017年

    前橋ビジョンの実現を⽀援するため地元企業家による有志が「太陽の会」を設⽴

  • 2018年

    太陽の会が広瀬川沿いに岡本太郎が制作した「太陽の鐘」を設置

  • 2019年

    市が前橋中⼼市街地の官⺠連携まちづくり指針「前橋市アーバンデザイン」を発表

    前橋市アーバンデザインの推進組織「前橋デザインコミッション(MDC)」が発⾜

発展期 発展期
  • 2020年

    前橋市アーバンデザインのリーディングプロジェクトとして「⾺場川通り」を選定

    市が中⼼市街地のまちづくりを担う団体として「MDC」「都市再⽣推進法⼈」に指定

    これにより太陽の会の寄付⾦を原資としたMDCによる事業推進体制が整う

  • 2021年

    地元説明会+社会実験+インタビューを繰り返してデザインのブラッシュアップを図る

    改修案を否定する道路や河川の管理者に対し「市街地整備課」が通りの⼀元管理を決意

    これにより地域の資源である「⽔路」を活かしたデザイン実現に⼤きな⼀歩を踏み出す

  • 2022年

    MDCは本ファンドの助成⾦や「SIB※」により事業推進に必要な追加資⾦を調達

    ⽇常管理を地元市⺠が⾏う「都市利便増進協定※」MDC+前橋市+沿道地権者で締結

    これにより公共空間を地元市⺠で管理運営する組織「⾺場川通りを良くする会」が発⾜

  • 2023年

    良くする会メンバーの地元⾼校にデザイナーが出向き⽣徒たちにデザインの考えを伝授

    完成後の恒例催事を⾒据え「⾺場川ボードゲーム」「前橋のバラ販売会」を定期開催

    地域サポーターの発掘・育成の機会として「NEXT MACHI CREATORS」を定期開催

活動期 活動期
  • 2024年

    4⽉16⽇「⾺場川通り」に官・⺠・地元関係者が⼀同に参集し「まちびらき」を披露

    以降、⾺場川通りを良くする会が通りの⽇常管理や定期的なイベントを⾏っている

※SIB(Social Impact Bond)とは
地⽅⾃治体が⺠間へ事業委託する際に活⽤する成果連動型委託契約に、投資家の資⾦提供を組み合わせる仕組み。⾺場川通りがまちづくり分野では国内初の事例であり、機関投資家が優良なまちづくりに参加できる新たな社会価値を⽣み出した。
※都市利便増進協定とは
都市再⽣特別措置法に基づき、地域のまちづくりや公的施設管理に関するルールをまちづくり団体や地域住⺠を中⼼に定めるための協定制度。⾺場川通りでは都市再⽣推進法⼈MDC、沿道地権者30名、前橋市の3者で2022年9⽉に締結された。

⽔路をまちの環境基盤に再⽣した「空間づくり」

⽔路の存在をグリーンインフラやウォーカブルな社会に資する環境基盤へと再編

まちの再⽣にあたり着⽬したのは前橋発展の礎となった⽔路の存在である。戦後の都市化で⽔路には蓋がされ⾞が主役のまちに変貌する中、商圏が郊外に移り中⼼市街地の衰退が始まる。デザインの提案はシンプルで、⽔路の柵を外して蓋を取り払いデッキやベンチを設けて⼈と⽔との関係性をまちなかに取り戻すことであった。酷暑で有名な前橋にあって役割を終えた⽔路をまちの冷却装置と捉え直し、安全性と快適性を兼ね備えた環境基盤を実現している。

整備後の⾺場川通り
整備後の⾺場川通り

馬場川通りのビフォーアフター

整備前平⾯図 S=1/1,200 マスタープラン S=1/1,200

整備前 : 整備前平⾯図 S=1/1,200 整備後 : マスタープラン S=1/1,200

整備前平⾯図 S=1/1,200
整備前平⾯図 S=1/1,200
マスタープラン S=1/1,200
マスタープラン S=1/1,200
整備前
中央通りより東を望む
中央通りより東を望む
整備後
250mmの段差を解消し、通り全体をフラットなレンガ舗装へ 使い勝⼿の良いオールジェンダートイレは⾺場川通りの⽇常管理のための倉庫機能も兼ねる
250mmの段差を解消し、通り全体をフラットなレンガ舗装へ
使い勝⼿の良いオールジェンダートイレは⾺場川通りの⽇常管理のための倉庫機能も兼ねる
整備前
中央通りより東を望む
⽩井屋ホテル下流より⻄を望む
整備後
250mmの段差を解消し、通り全体をフラットなレンガ舗装へ 使い勝⼿の良いオールジェンダートイレは⾺場川通りの⽇常管理のための倉庫機能も兼ねる
⽔路に架かる橋の撤去や減幅により⽔⾯を最⼤化
3種類のデッキにより誰もが⽔辺を享受できる滞留空間を実現

⽔路をまちの社会基盤に据えた「仕組みづくり」

多様な主体による住⺠⾃治的公共空間管理運営体制で中⼼市街地をつなぎ直す拠点づくり

設計開始から⼯事完了までの3年間を使い、地元市⺠を巻き込んだ勉強会やワークショップに加え、社会実験や⾒学会を継続的に⾏い整備後の運営体制を徹底的に議論してきた。

その成果がエリアマネジメント組織「⾺場川通りを良くする会」へと発展。かつては⽔路(準⽤河川)・遊歩道(公園)・道路(市道)に分かれていた管理窓⼝を市街地整備課に⼀本化し、円滑な官⺠連携体制を構築することで、市⺠の意志が反映しやすい活動の舞台がまちの中⼼に整えられている。まちびらき後には毎⽉の⼩さな企画として「ボードゲーム⼤会」や前橋産バラの販売会「Poppin Rose Market」が定着化されつつあり、2024年5⽉からは維持管理活動の⼀環としてごみ拾いを⾏い、その後コーヒーを飲みながら参加者がゆるくつながる「CCC(Cleanup & Coffee Club)@前橋⾺場川」も始まり、ハード整備で終わらないソフト事業も⼀体となった⺠間が主体のまちづくりを進めている。

「前橋市アーバンデザイン」(2019年)前橋市
「前橋市アーバンデザイン(2019年)前橋市」

まちびらき後の活動

「馬場川横丁」を開催します!

「ボードゲームをしてみようの会」を開催しました

第7回 Poppin Rose Market


現れた活動の成果

  • 成果連動型ファンドの評価

    コロナ禍前5年データに対して歩⾏者通行量が112%増加(SIB評価による2024年6⽉実績)➡「国内初のまちづくりSIBが最⾼評価で終了」

  • 路線価の上昇

    2024年7⽉の路線価発表で、前橋市の中⼼市街地である本町2丁⽬(本町通り)の路線価が32年ぶりに上昇。要因として「⾺場川通りの整備」も寄与。

  • その他の効果

    新店舗の開業

    24年だけで⾺塲川通りで5店舗開業(予定含む)

    ⺠間投資を誘発

    天元ビルリノベ(10⽉竣⼯)、そのほか開発予定で2物件を地元投資家が取得

歴史⽂化を継承し、地域とつながるインフラストラクチャー整備

明治時代から戦前にかけて、前橋市街地に近代的なまちなみ整備にレンガは⼤きな役割を果たしてきた歴史があり、その様⼦は現在でも上⽑倉庫や安⽥倉庫などからうかがい知ることができる。そんなレンガの歴史を継承して、近年、前橋市ではレンガを使った広瀬川河畔緑地など歩道や⾞道にもレンガを使った整備が⾏われてきている。本プロジェクトでもこういった動きと連動し歩⾞道を⼀体的にレンガで整備するなど⽂化の継承に取り組んでいる。また、まちの⽊質化の取り組みとして、トレーサビリティの観点から国産材を使⽤してベンチやデッキ、公衆トイレの外装材とした。薬剤を使⽤しない耐候性処理を施した⼈にやさしい安⼼安全な⽊材を選定している。

⾺場川通りの整備計画断⾯パース
⾺場川通りの整備計画断⾯パース

前橋では江⼾末期に前橋城の再建を⺠間⼈が担い、明治期には⾼崎から前橋に県庁を地元有⼒者が誘致するなど、市井の声を官⺠が連携して実現してきた⽂化がある。この象徴が⾺場川プロジェクトそのものであり、寄付による公衆トイレや記名レンガである。その存在が、前橋が⽬指すべき社会的包摂性を明⽰している。

公募で集めた寄付者による記名レンガ
公募で集めた寄付者による記名レンガ
公募で集めた寄付者によるベンチ銘板
公募で集めた寄付者によるベンチ銘板

通りの景観に寄与する公衆トイレの建替計画

世界的デザイナーであるジャスパー・モリソン⽒のデザインにより、⾺場川通りの起点に位置する公衆トイレの建替えを⾏った。トイレ機能以外にもポーチや倉庫、既存地上機のカバーなど通り全体に寄与する機能を備えている。構造は⽊造、また外壁材には⽊材を使⽤することで、脱炭素化を考慮した持続可能なまちづくりを⽬指した。

公衆トイレの建替計画
MDCによる利⽤者へのヒアリングや前橋市との意⾒交換を通じて、将来のあるべき姿について機能や使い⽅を検討した。トイレは男⼥の区別をせず、誰でも使えるジェンダーレストイレを2室設けた。⽚⽅は⾞椅⼦・オストメイト対応となっている。また地上機置き場の背⾯には倉庫を設け、清掃⽤具やイベント⽤品などの格納に活⽤している。
⾬宿りをしたり⽇陰で休憩できるみんなの居場所を設けた。花壇の⽔遣りや清掃⽤の⽔栓も⽤意されている。
《ポーチ》 ⾬宿りをしたり⽇陰で休憩できるみんなの居場所を設けた。花壇の⽔遣りや清掃⽤の⽔栓も⽤意されている。
景観に配慮し、これまで露出していた既存の地上機(変電設備)を建物でカバーし点検⽤の扉を設置した。
《地上機置き場》 景観に配慮し、これまで露出していた既存の地上機(変電設備)を建物でカバーし点検⽤の扉を設置した。
経年変化を魅⼒の⼀部として捉え、サーモ処理を施した無塗装で使⽤できる⽊材を使⽤。素材感を感じつつ変化を楽しめる。
《外壁⽊材》 経年変化を魅⼒の⼀部として捉え、サーモ処理を施した無塗装で使⽤できる⽊材を使⽤。素材感を感じつつ変化を楽しめる。
ジャスパー・モリソン⽒による現地確認の様⼦。時間を経てもまちに馴染むデザインを追求した。
《海外デザイナー》 ジャスパー・モリソン⽒による現地確認の様⼦。時間を経てもまちに馴染むデザインを追求した。

まちの冷却装置としての⽔路

夏季の気温と⽔温(2023年8⽉23⽇計測)。左図、上から利根川(⽔⾯24.9℃/気温32.0℃)、広瀬川(⽔⾯25.4℃/気温32.0℃)、⾺場川(⽔⾯19.0℃/気温32.0℃)。測定結果により、⽔の表⾯温度が外気温より最⼤13℃低いことが判った。利根川から取⽔された⾺場川の⽔温が最も低いが暗渠区間で地中冷却されたためと考えられる。これらの調査を基に、まちを冷やす⽔路の可能性を追求し、⼼地よい⼈の居場所という観点に置き換え計画に反映している。

まちの冷却装置としての⽔路
まちの冷却装置としての⽔路

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